第18話 穀詰(2) ~大麦を一粒ずつ送り込む~

 
括りおわった鞠に大麦を麦穴(むぎあな)から漏斗で流し込み、
鞠の形を作っていきます。
 
鞠の半分までは簡単に流し込めますが、
そこから先は、小さいステンレス漏斗で10gずつ、
詰棒を使って送り込みます。
漏斗の口は直径10mmほど、詰棒も直径10mm、長さ25cm。
どちらも手製の道具。
そう、「送り込む」という表現がぴったりな作業が穀詰です!
 
詰棒で搗きながら隙間をつくって大麦を送り込みます。
最初のうちは、軽く搗いてリズミカルに送り込んでいきますが、
徐々に詰棒が入りにくくなります。
 
ここからが穀詰の本番!
 
(1)詰棒を直径6mm、長さ25cmに持ちかえて
漏斗を中心に鞠を45度ずつ回転させながら大麦を送り込みます。
無理やりつくと詰棒で鞠革を破いてしまうので
立った姿勢で、肘を固めて体重をのせて送り込みますが、
次第に詰棒が入らなくなります。
(2)型作板(手製)で、叩きながら鞠の形を整えていきます。
叩いていると、中の大麦に隙間ができ、再び(1)の作業を繰り返します。
(3)麦穴から大麦が入らなくなるまで、(1)(2)の作業を繰り返します。
(4)最後は長さ10cmの詰棒で大麦を一粒ずつ詰めていきます。
(5)もうこれ以上入らない!
この状態から再度(1)~(4)の作業を繰り返すとまた隙間が・・・、出来るんです!
 
三日がかりの作業、重さは約3kg。
最初の頃は、根気負けして(4)の作業で終えていました。
失敗作が何個かできました。

                            2021年5月25日 游達

 
けまりの研究室(1)穀詰(こくつめ)

けまりの研究室(2)大麦と漏斗

けまりの研究室(3)麦穴(むぎあな)

 
 

 

第17話 穀詰(1) 「もうひとつ口伝」 ~なぜ「殻付きの大麦」なのか~

 
京都市内にいるときは手に入らなかった「殻付きの大麦」。
その代用として玄米を使っていました。
 
京丹波町に移住してから
「〇〇で売ってるよ」と教えてもらいましたが、
「直接、生産農家さんに言って下さい」と。
 
しばらくして、
ご近所の農家さんとそんな事をたまたま喋っていたら
 
「それなら取り寄せてあげるわ!」
「はっ?・・・あっ、ありがとうございます!!!」
 
また別の方から
「伝統文化の役に立つなら是非、協力します」と、快く分けていただき、
わたしの心は躍り上がりました。
 
「これで口伝どおりの鞠作りができる!」
 
また、長年の「なぜ、大麦なのか?」という疑問にたいしても
教えてもらいました。
 
「殻付きの大麦は吸水性がない」
 
この一言に拍子抜けすると同時に大納得!!!
 
穀詰めした鞠は、その表面を布海苔で洗ったのち膠を塗ります。
吸水性がある穀物は鞠の内側にくっ付いてしまい、
穀抜きの際、最後の一粒まですべて抜くために苦労します。
 
まさに先人の知恵。
 
おかげさまで、私が何年も探し求めていた「殻付きの大麦」を手に入れて、
その意味まで理解することができました。
鞠作りのために京丹波町にきて、本当によかったと思っています。

                            2021年2月8日 游達

 
けまりの研究室「麦秋」 撮影:2020年5月26日

 
 

 

第16話 鞠作り(5) 「括り(二)」 ~二周目、最後の難関~

 
一周目を括り終えた。
 
二周目からは中に手が入らないので、
コ-キング用スティック(*)(以後「スティック」という)
と、千枚通しを使って括っていく。
 
千枚通しは、
腰が強くて、曲がりにくい物を使う。
 
手順は次のとおり
1)進行方向のふたつの目に、スティックを逆方向から差し込む
2)その上から千枚通しを滑らすように差し込んで、
3)腰皮を差し込むための隙間をあける
4)次に、千枚通しを引き抜きながら、その隙間に腰皮を差し込み、
5)細く切りそろえた腰皮の先端を手で少し引っ張り出す
6)千枚通し、スティックを引き抜いたあと
7)腰皮を引っ張って、目を揃えながら絞る

この単調な繰り返しが、約3時間。
調子よくリズムに乗ると
楽しくなって、
ふふぅ~ん!と鼻歌まじりになる。

最後の難関は「くさびの部分」。

腰皮の緩みを防ぐために目を五つもどす。
この部分だけは、腰皮を三周も通すことになるので、
くさびが邪魔をして厄介だ!
鞠革を切らないように細心の注意を要する。

括り終えたら、腰皮を5㎝ほど残して切り落として完了。
重さはおよそ100g。
この時点で、鞠の良し悪しがわかる。

次の工程は「穀詰め」です。

(*)第15話では「スティックガイド」と表現していましたが、商品名は「コ-キング用スティック」です。

                            2021年1月15日 游達

 
けまりの研究室コ-キング用スティック(左側)の上を滑らせて、千枚通しの隙間に腰皮の先端を差し込む

 
 

 

第15話 鞠作り(4) 「括り(一周目)」 ~ゆっくり・丁寧に・慎重に~

 
いよいよ2枚の鞠革を、腰皮で繋いで球形にする。
これを鞠作りでは「括り(くくり)」と称している。
 
切れ目を合わせて、3目から括り始める。
重ねた目に裏側から腰皮を通し、
表に出た腰皮を次の目に差し込む。
これを目の数だけ繰り返すこと175~185回(*)
集中力が欠かせない。
 
長さ160cmの腰皮が「シューッ」と音を立てるリズムが心地よい。
このリズムの良し悪しで、
鞠の出来具合がわかるようになった。
 
腰皮を軽く絞る。
160目ほどから裏側に手が入らないため
スティックガイドを使って
注意深く目をひろいながら腰皮を一気に通していく。
 
目を間違ったり、下の目を拾い忘れたりすると元に戻すのは容易ではない。
腰皮も痛めてしまうし、最悪、鞠革をダメにしてしまう。
ゆっくり、丁寧に、慎重に。
 
ようやく括り始めにたどり着くと
腰皮のくさびが邪魔をする最も通しにくい場所だ。
革を切らないようにガイドを駆使して慎重に通し終えると
わたしの集中力が切れた。
 
「2周目は、明日にしよう!」
 
(*)目の数は鞠革によって変わります

                            2020年11月05日 游達

 
けまりの研究室一周目・二分の一

 
 

 

第14話 鞠作り(3) 「腰皮」 ~鞠の命~

 
腰皮は、
目打ちした2枚の鞠革を括るための細長い皮。
 
口伝では「馬の背皮」だが、
以前、業者にたずねたら
「馬一頭を買ってくれ」といわれたので、
さすがに、それはあきらめて
雄鹿の皮を使ってみることにした。
 
天日乾燥させて毛を処理しただけの雄鹿の皮は、
馬の背皮に匹敵するような硬さと厚みがある。
(2020年現在使用)
 
直径約20cmの5寸鞠を
二周廻して括るには、長さが160cmほど必要なので、
体重70kgぐらいの大きな雄鹿でないと腰皮は作れない。
そのため年に一頭だけ
雄鹿の皮を分けてもらっている。
 
鞠革の目巾は15mm。
それにあわせて腰皮を16mmほどに切りだして、やすりで削っていく。
巾が広いと括っている途中で腰皮が反ってしまうからだ。
また、
部分によって皮の厚みも違うので、
やすりをかけて厚みをそろえるのが難しい。
 
最後に同じ鹿皮で楔を取りつけ、先端は鋭角に切りそろえて、
「鞠の命」ともいえる腰皮が完成する。

                            2020年9月30日 游達

 
けまりの研究室腰皮作り
 
けまりの研究室括り始め
 
けまりの研究室

 
 

 

第13話 鞠作り(2) 「目打ち」 ~目打ちに失敗は許されない~

 
製図をおえた鞠革(まりがわ)に、
鞠を括る(くくる)ための切れ目を目打金(めうちがね)で打っていく
(*第12話の画像参照)
目打ちに失敗は許されない
失敗すれば
鹿一頭が無駄になる
 
二枚かさねた鞠革に
目打金の刃を垂直にあてて製図線を打ち抜いていく
 
クッ、トッ、トトン
規則正しいリズムの繰り返し
約二時間の作業
20目ほど進んだところで集中力が途切れてしまうと
美女山を眺めて深呼吸する
 
鞠は、丸く切った二枚の鞠革を腰皮(こしかわ)で二周括りあわせているが
鞠のバランスを保つために、
2か所で内と外に切り返している
そのため
切り返しの部分は、製図線の目巾の真ん中を打ちぬかなければならない
この微妙なさじ加減がわかるまで
鞠革を何枚か無駄にしてしまった
 
最後に
革の円周を切り、麦穴を打ち抜いて作業終了
 
これで鞠作りの第一段階「製図」と「目打ち」を終えて、
次は、腰皮作りにとりかかる

                            2020年8月16日 游達

けまりの研究室

切り返しの部分

 
 

 

第12話 鞠作り(1) 「製図」

 
2019年8月より、鹿皮の処理から半鞣までの工程を紹介してきました
ここからいよいよ、鞠作りに入って行きます
 
鞠作りは、市販の革で何度も作っているので、要領は分かっている
やっと、念願の鹿革での挑戦
半鞣しの鹿革を私は、「鞠革(まりがわ)」と名付けた
 
まずは「製図」
鞠革2枚を重ね合わせて対角線上に革を張りながら、
およそ12か所を釘止めしていく
次に、
鞠革の中心に縫い針を打ち、定規を差し込んで円を描く
一周目 中心から四寸五分、
二周目 次は五寸、
三周目 続いて五寸二分、
四周目 最後に五寸四分、
描き終われば、中心を通して円を四分割する
 
ここからさらに、気が抜けない作業が約二時間つづく
息をするどころか瞬きも忘れるほどである
 
二周目の円から一周目の円まで、中心に向かって、一分五厘の目巾で線を描いていく
全部で186目
鞠を括るために鑿で目打ちをする線
今なら精密機械で製図なしに一気に目打ちすることも可能だろう
しかし、あえて手作業にこだわるのは、
電気も機械もなかった昔の鞠作りを復活させたかったからだ
 
自分で作ってみないとわからない先人の技術
そこにも、
伝えていかなければならない蹴鞠の伝統と歴史がある

                            2020年6月28日 游達

けまりの研究室

製図から目打ちへ

 
 

 

第11話 「蹴鞠の真髄」

 
子どもの頃の夢は、プロ野球選手
朝から晩まで野球ひとすじ
 
社会人になってその夢はあきらめたが
ほかに打ち込める「何か」をさがしていた
 
マラソン、ゴルフ、テニス、ボ-リング、スキ-、スケート、水泳
お茶、謡・・・ありとあらゆる事に挑戦した
 
蹴鞠と出会ったのは、25歳のとき
書物を読んでその歴史を学び、
先輩方から、「蹴鞠の何たるか」を教わった
 
そして、
1400年の歴史の奥深さを知り、
仕事以外は全部やめて
蹴鞠に本腰を入れるようになった
 
「何としても思いのままに鞠をコントロールしたい!」
 
 
わたしの蹴鞠人生も40年を過ぎたが
まだ、思いのままにならない
 
迷いながら、悩みながら、わが身が許すかぎり
蹴鞠の真髄を追い求めていきたい

                            2020年5月14日

けまりの研究室

鞠作りの材料「大麦」自家栽培中 (2020年5月12日撮影)

 
 

 

第10話 半鞣 二-2 「半鞣しの入り口」

 
プラスチックのような鹿皮を
ゆっくりゆっくり、一日がかりでもみ続けて
ようやく
真ん中のあたりが柔らかくなった
 
 
二日目
これから皮の周囲にとりかかる
 
35cm角の一辺を6等分ぐらいに分けて揉みはじめる
あくまでも、ゆっくりと・・・
 
四辺を一周するのに約2時間
こんな単純作業をしていると、気が遠くなってきて
いろんな事が脳裏をよぎる
「鞠作りはこれでいいのか?」
「蹴鞠の普及活動はどうすればいいか?」
「何のために俺は、こんな事をしているのか・・・?」
 
それでも続けること数時間、少し柔らかくなってきた
皮に付いている糠を落として、
鉋刃で分厚いところを削ぐ
慎重に、丁寧に、
破かないように厚薄を均して、再び、糠で揉む
 
こうして
二日目も、日が暮れるまで作業を続けて
やっと、
「半鞣の入口」にたどり着いた!
ような気がした

                            2020年4月

けまりの研究室

鹿皮、仕上げの作業(第8話参照)

 
 

 

第9話 半鞣 二-1 「ゆっくりゆっくり 1、2、3」

 
いよいよ鞣しにとりかかる
とても薄いプラスチック製のような“パリッ”とした鹿皮を
鞠革独特の「半鞣」にする
この良し悪しが、鞠の出来不出来につながる
自分でなめす以外、手に入らない
 
大きく深呼吸して「さあ、行くぞ!」
皮の真ん中に糠をひとつかみ乗せて揉みはじめる
 
「ゆっくりゆっくり 1、2、3」と数えて30回
そして、皮を45度まわして糠を乗せて「ゆっくりゆっくり」30回
これを繰り返すこと約1時間
少し柔らかくなってきたが、まだ“パリパリ”と音がする
 
無心で揉んでいるうちに手首も指もこわばってきて、痛い!
肘も腰も、全身が固まっている
ちょっと休憩!
マッサージとストレッチで体をほぐして再開
  
皮をしげしげと眺めて、軽く曲げて、なめし具合をみる
「ここが堅いな!」「ここはもう少しだな」
ぶつぶつ独り言をいいながら、この作業も7日間の体力勝負だ
 
 
はじめて「半鞣」に挑んだ時の事を振り返ると
何もわからず、力まかせにひたすら揉んでいた
手のマメがつぶれるまで1週間揉みつづけたが、
案の定、鞠にはならなかった
しかし
失敗は成功の基、あきらめずに挑戦あるのみ!
それは今でも変わらない

                            2020年4月

けまりの研究室

鹿皮処理を終えて(2018年1月23日撮影)

 
 

 

第8話 「モフモフの冬毛」

 
鉋刃のおかげで毛は飛び散らなくなったが・・・
 
犬を飼っている方はご存知と思うが動物は、
冬場になるとふわふわの「冬毛」が生えてくる。
 
鹿の剛毛の散髪は約4時間の荒仕事。肘関節が痛み出し、手の指がこわばる。
しかし、その下に
ふわふわの、今どきの流行でいうと「モフモフ」のが生えている!
 
鉋刃を一寸鑿に持ち替えて、
根気のいる作業、「モフモフ」の細かい冬毛とのたたかい。
 
散髪屋さんのように、髭そりの要領で剃っていく。
「モフモフ」の毛は、天然パーマのようにあちこちの方向にむいているから
鑿の角度をかえながら、体の向きを変えながら、
少しずつ少しずつ、丁寧に丁寧に剃っていく。
 
剃った細かい毛が鑿に引っかかると、皮を破いてしまう。
こまめに掃除は欠かせない。
鑿をあてる角度、刃と毛の角度に集中しながらの作業が約3時間。
 
そして、
鑿を一寸から四分に持ち替えて、仕上げの作業。
皮を光に透かして、毛が残っていないか確認しながら、
剃り残しの細かい毛を丁寧に剃っていく。
妥協は許されない。
集中すること約1時間、腕はもう限界だ!
 
私が、ここまで拘るのは、
毛の処理の良し悪しが、「半鞣」の鞠革作りに大きく影響するからです。

                            2020年3月

けまりの研究室

鹿革游達鞠

 
 

 

第7話 「バリカンでは無理だった」

 
鹿皮処理の次の段階は「毛を剃る」。この作業も試行錯誤の日々が続いた。
 
初めての作業は、鋏と鑿でがむしゃらに処理をした。
しかし!
工房から帰った私は、我家の「山の神」の怒りを爆発させてしまった。
 
「体中に毛をつけたまま帰ってくるなぁ-!(怒)」
 
知り合いの散髪屋さんに相談してみた。答えは二つ
「(鹿の)剛毛は、バリカンでは無理」
「お客さんの髭を剃るときは、刃を45度にあてる」
 
「カリカリ」に続いて今度は、毛を剃るための道具さがしをはじめた。
しかし、あれもダメこれもダメ、効率が悪い、綺麗に仕上がらない・・・
 
思案に暮れて別の作業に取り掛かる。と、壊れた鉋の錆びた刃が目に飛び込んだ。
 
「これを試してみるか?」
 
錆びた刃では、引っかかって皮が破れてしまう。
刃を研いでみる。そして・・・
三度目の研ぎ直しでようやく、綺麗に毛を剃ることが出来た。
 
鞠作りの二つ目の道具「鉋の刃」。
このおかげで、毛も飛び散らなくなりました。
「これで家に入れてもらえる」

                            2020年1月

けまりの研究室

鞠作りに欠かせないもの、「大麦」。  畑で自家栽培中!

 
 

 

第6話 「カリカリちゃん、ありがとう!」

 
親戚の畑仕事の手伝いをしていた時、その「カリカリ」を見つけた。
それは、錆びついた雑草用の草刈りひねり鎌で、親戚たちがそう呼んでいた。
 
手にとって、ふとひらめいた。
「これ、使ってみよう!」
 
この頃、私の頭の中を常に支配していたのは「どうすれば鹿皮処理がうまくいくか」だったが、
この錆びて使わなくなった「カリカリ」に、私のもと大工の勘が働いた。
 
錆を落として刃を研ぎ、刃先の角に少し丸みを付けていざ、挑戦!
「こうかな?」 「いや、違うなぁ?」 「この角度か?」
 
鹿皮を相手にブツブツ独り言をいう。
「・・・ん?いい感じ!」
 
手応えがあった、心が躍りだした。
「うんうん、よしよし、いいぞいいぞぉ~!」
「カリカリちゃん、ありがとう!」
 
 
一枚目の無残な失敗からおよそ1年後、私の執念が実を結んだ瞬間でした。
今はこの「カリカリ」1本で1時間~1時間半と、鹿皮処理は飛躍的に向上しています。
 
そして、これをきっかけにして、鞠作りに必要な道具を自分で作るようになりました。

                            2020年1月

けまりの研究室  
 

 

第5話 一枚目の鹿皮(二) 「アッ!切れた」

 
作業板に張り終えた畳半分ほどの鹿皮を眺めて、「さて、どうしたものか・・・?」
 
とりあえず、皮の表面をきれいにすればよいだろうと、ナイフを片手に作業に取り掛かる。
10cm四方の皮を処理するのに10分以上も要した。その上、どう見ても美しくない。
焦る気持ちで、ナイフの刃を立てると、
 
「アッ!切れた」
 
やっと手にいれた鹿皮なのに切れてしまった。
あれこれとナイフの使い方を変えてみるが、どうも上手くいかない。
試行錯誤しながら作業を続けるが、焦れば焦るほどあちこち切れ目だらけになる。
 
「こんなものかなぁ?」
 
朝9時ごろから屋外で作業をはじめて、気がつくと陽が傾き手元も見えなくなってきた。
さすがに、体力自慢の私も精魂つきて作業終了。
日中の平均気温は一桁だったが、作業着の中は汗だく「早く着替えないと・・・」
 
これは2018年の冬のことです。
今振り返ってみると、皮の処理方法も知らないのに
「鹿革鞠を復活させる」の一心だけでよくやったなあと、苦笑いしています。

                            2019年12月
 

けまりの研究室

鹿皮処理(2019年11月15日撮影)

 
 

 

第4話 一枚目の鹿皮(一) 「何?これ?」

 
2018年1月上旬、(株)アートキューブさんから電話がありました。
 
「鹿が捕れたよ、取りに来て」
 
急いで鹿皮を入れるケースを積んで、わくわくしながら車を走らせました。
「体重50kgほどの雌鹿です」との説明。これが一枚目の鹿皮との出会いでした。
 
それは、厚手の白いビニール袋に入れられていて、中身の状態は分かりません。
とにかく、その場でダニ専用の殺虫剤を袋の上から針を刺して注入して持ち帰り、
一晩作業場に保管。
翌朝、全身完全防護の作業着でケースから鹿皮をとりだしました。
 
「何?これ?」
 
皮の重さは5kgほどと記憶していますが、その時はとても重く感じました。
 
はじめてみる鹿皮は得体の知れない「モノ」でした。
首のあたりと思われる部分に黒豆のような大小のダニの死骸が・・・!
とりあえず、大きい釘に皮を引っ掛けて作業板に広げてから、上の方から釘止めして行きました。
この作業だけに一時間もかかってしまいました。
 
「さて、どうしたものか?」 鹿皮との“悪戦苦闘”の始まりです。

                            2019年11月
 

けまりの研究室

(2)古典講座「蹴鞠~古典にみるスポーツ」2019年11月23日(土)
講師/村戸弥生氏(蹴鞠研究家)
 詳しくは、鎌倉文学館HPをご覧ください。

 
 

 

第3話 足魂(あしたましひ)

 
蹴鞠には「突延」(つきのび)という、最高難度の技が有ります。
懸の木(かかりのき=鞠場の四隅に立つ木)の低い枝にあたって跳ね返った鞠を、瞬時に飛びついて蹴りあげる技です。
鞠場に残っている突延の足跡は、左足の沓先が一丈(=3メートル)も地面を擦っているのが良いとされています。

あしたましひ

飛鳥井雅有撰「内外三時抄」(ないげさんじしょう=13世紀末の蹴鞠のルールブック)には
「突延」習得の心得として次のように記されています。
「是は、師も教へ難く我も習ひ難し、心に深く約束し、功入るに従ひて
 あしたましひ 出来て心を待たず、思いに従わず、鞠に付て足自然に振舞ふ也」

蹴鞠研究の第一人者である東京大学名誉教授の渡辺 融先生は、
「現代スポーツ科学でいう「反応の反射化」の体験を「足魂」という語を使って見事に叙述したこの一説に出会った時・・・(略)・・・
蹴鞠なるものを見直さざるを得ない心境になった。」(朝日新聞夕刊 1993年9月20日~24日「出あいの風景」より)
と仰っています。渡辺先生は東大の野球部員で、その後東大野球部監督を二期勤めておられました。
  
優雅に見える鞠足(まりあし=蹴鞠をする人)の動きの中にも、体が覚えるまでの鍛錬が必要だと「内外三時抄」は教えています。

「半鞣」の鹿革製の鞠は、蹴鞠のその動きに応えるものであり、耐えられる鞠でなければなりません。
それが私の目指す、足魂が宿る鹿革鞠だと確信しています。

鞠と鞠足の舞は、今世紀も続きます。

                            2019年10月
 

天理大学附属天理参考館 第67回企画展図録「蹴鞠」より
けまりの研究室  
 

 

第2話 鹿皮との出会い

 
2017年3月8日、京都新聞の小さい記事に目が釘付けになりました。
記事の見出しは「猟師直伝 ジビエの極意」。それは「ジビエハンターガイドブック」を出版したという記事でした。

「これだ!」
この30年間、鞠作りに必要な鹿の皮の入手方法を模索していた私は、
「鹿肉があるという事は、皮があるはずだ」と直感、即連絡を取りました。
「鹿皮をわけてください!」

3月18日、京丹波町にある(株)ア-トキュ-ブの垣内社長と初めてお会いし、鹿皮提供のご協力をお願いしました。
日本の伝統文化である蹴鞠には鹿革鞠は不可欠である事をご説明したところ
「そんな事なら協力するよ」と快諾して頂きました。
私は興奮していました。「これで鞠作りが出来る」

6月19日、鹿革の打合せの為に、再び京丹波町へ向かいました。
その後、鞠作りに専念する為に「家を探している」と言うと、垣内社長が「それなら今から物件を案内するよ」。
その物件がいま暮らしている自宅です。
この日から私達の生活は激変し、10月25日、美女山の里への移住が完了しました。

2019年9月     第2話 鹿皮との出会い
 

重要文化財 「神鹿」 鎌倉時代 高山寺蔵(絵はがきより)
けまりの研究室

先日、高山寺の執事様から高山寺の歴史についてご教示を頂く機会を得ました。
国宝の鳥獣人物戯画絵巻に代表されるように、寺宝としての美術工芸品は極めて多く、
国指定の文化財は国宝7件、重要文化財50件に及ぶ中に、この「神鹿」があることを
教えてくださいました。

 
 

 

第1話 半鞣(はんなめし)

 
 「鹿皮は雌鹿で、鉄砲で獲ったのはあかんのや。」
 「鞠は半鞣の革でないとあかんのや。」
 「(皮は)糠と塩で揉むんや。」

この三行は、鞠作りの口伝です。
伝統ある蹴鞠保存会に40年間在籍していた私が、先輩をご自宅まで送って行った車中での会話。鞠作りについて教わった言葉です。

蹴鞠人生50年の先輩から「鞠作りの口伝」を受け継いだのは、数人だけです。

「半鞣」とはどのような革なのか?
「半鞣」の革で作られた鞠は、どのような感触なのか?
なぜ「半鞣」でなければならないのか?

蹴鞠にとって、鞠は必数アイテムです。
  しかし、鞠作りの教科書もマニュアルもありません。全てが「秘伝・口伝」です。
「生の鹿皮からの製法は文献を見た事がない。」(東京大学名誉教授 渡辺 融先生談)

この「なぜ?」が私の鞠作りの原点となり、私の「答えのない挑戦」の始まりです。

注釈 皮:動植物の外面をおおい包んでいるもの。表皮。
   革:動物の皮をはいでなめしたもの。なめしがわ。
                   (学研現代新国語辞典 改訂第五版より)

2019年8月 文責游達
 

けまりの研究室

2019年7月27~28日にかけて、阿羅功也先生
(独立行政法人国立高等専門学校機構 旭川工業高等専門学校一般人文科 助教
サッカー部監督)が、蹴鞠研究の為に小竹荘を来訪。鞠作り工程の解説風景

 
 

 

はじめに

 
蹴鞠の研究は、渡辺融先生(東京大学名誉教授)、村戸弥生先生(蹴鞠研究家・学術博士)をはじめ多くの先生方が著作や研究書として出版されています。
 
けまり鞠遊会では、先生方の助言をうけながら伝統工法による「鹿革鞠」(しかがわまり)の復活を中心に、「けまりの研究室」-研(みがく)・究(きわめる)・室(へや)- のぺ-ジで独自の視点で蹴鞠を研究し紹介して行きます。
 
2019年7月 けまり鞠遊会