第4話 一枚目の鹿皮(一) 「何?これ?」

 
2018年1月上旬、(株)アートキューブさんから電話がありました。
 
「鹿が捕れたよ、取りに来て」
 
急いで鹿皮を入れるケースを積んで、わくわくしながら車を走らせました。
「体重50kgほどの雌鹿です」との説明。これが一枚目の鹿皮との出会いでした。
 
それは、厚手の白いビニール袋に入れられていて、中身の状態は分かりません。
とにかく、その場でダニ専用の殺虫剤を袋の上から針を刺して注入して持ち帰り、
一晩作業場に保管。
翌朝、全身完全防護の作業着でケースから鹿皮をとりだしました。
 
「何?これ?」
 
皮の重さは5kgほどと記憶していますが、その時はとても重く感じました。
 
はじめてみる鹿皮は得体の知れない「モノ」でした。
首のあたりと思われる部分に黒豆のような大小のダニの死骸が・・・!
とりあえず、大きい釘に皮を引っ掛けて作業板に広げてから、上の方から釘止めして行きました。
この作業だけに一時間もかかってしまいました。
 
「さて、どうしたものか?」 鹿皮との“悪戦苦闘”の始まりです。

                            2019年11月
 

けまりの研究室

(2)古典講座「蹴鞠~古典にみるスポーツ」2019年11月23日(土)
講師/村戸弥生氏(蹴鞠研究家)
 詳しくは、鎌倉文学館HPをご覧ください。

 
 

 

第3話 足魂(あしたましひ)

 
蹴鞠には「突延」(つきのび)という、最高難度の技が有ります。
懸の木(かかりのき=鞠場の四隅に立つ木)の低い枝にあたって跳ね返った鞠を、瞬時に飛びついて蹴りあげる技です。
鞠場に残っている突延の足跡は、左足の沓先が一丈(=3メートル)も地面を擦っているのが良いとされています。

あしたましひ

飛鳥井雅有撰「内外三時抄」(ないげさんじしょう=13世紀末の蹴鞠のルールブック)には
「突延」習得の心得として次のように記されています。
「是は、師も教へ難く我も習ひ難し、心に深く約束し、功入るに従ひて
 あしたましひ 出来て心を待たず、思いに従わず、鞠に付て足自然に振舞ふ也」

蹴鞠研究の第一人者である東京大学名誉教授の渡辺 融先生は、
「現代スポーツ科学でいう「反応の反射化」の体験を「足魂」という語を使って見事に叙述したこの一説に出会った時・・・(略)・・・
蹴鞠なるものを見直さざるを得ない心境になった。」(朝日新聞夕刊 1993年9月20日~24日「出あいの風景」より)
と仰っています。渡辺先生は東大の野球部員で、その後東大野球部監督を二期勤めておられました。
  
優雅に見える鞠足(まりあし=蹴鞠をする人)の動きの中にも、体が覚えるまでの鍛錬が必要だと「内外三時抄」は教えています。

「半鞣」の鹿革製の鞠は、蹴鞠のその動きに応えるものであり、耐えられる鞠でなければなりません。
それが私の目指す、足魂が宿る鹿革鞠だと確信しています。

鞠と鞠足の舞は、今世紀も続きます。

                            2019年10月
 

天理大学附属天理参考館 第67回企画展図録「蹴鞠」より
けまりの研究室  
 

 

第2話 鹿皮との出会い

 
2017年3月8日、京都新聞の小さい記事に目が釘付けになりました。
記事の見出しは「猟師直伝 ジビエの極意」。それは「ジビエハンターガイドブック」を出版したという記事でした。

「これだ!」
この30年間、鞠作りに必要な鹿の皮の入手方法を模索していた私は、
「鹿肉があるという事は、皮があるはずだ」と直感、即連絡を取りました。
「鹿皮をわけてください!」

3月18日、京丹波町にある(株)ア-トキュ-ブの垣内社長と初めてお会いし、鹿皮提供のご協力をお願いしました。
日本の伝統文化である蹴鞠には鹿革鞠は不可欠である事をご説明したところ
「そんな事なら協力するよ」と快諾して頂きました。
私は興奮していました。「これで鞠作りが出来る」

6月19日、鹿革の打合せの為に、再び京丹波町へ向かいました。
その後、鞠作りに専念する為に「家を探している」と言うと、垣内社長が「それなら今から物件を案内するよ」。
その物件がいま暮らしている自宅です。
この日から私達の生活は激変し、10月25日、美女山の里への移住が完了しました。

2019年9月     第2話 鹿皮との出会い
 

重要文化財 「神鹿」 鎌倉時代 高山寺蔵(絵はがきより)
けまりの研究室

先日、高山寺の執事様から高山寺の歴史についてご教示を頂く機会を得ました。
国宝の鳥獣人物戯画絵巻に代表されるように、寺宝としての美術工芸品は極めて多く、
国指定の文化財は国宝7件、重要文化財50件に及ぶ中に、この「神鹿」があることを
教えてくださいました。

 
 

 

第1話 半鞣(はんなめし)

 
 「鹿皮は雌鹿で、鉄砲で獲ったのはあかんのや。」
 「鞠は半鞣の革でないとあかんのや。」
 「(皮は)糠と塩で揉むんや。」

この三行は、鞠作りの口伝です。
伝統ある蹴鞠保存会に40年間在籍していた私が、先輩をご自宅まで送って行った車中での会話。鞠作りについて教わった言葉です。

蹴鞠人生50年の先輩から「鞠作りの口伝」を受け継いだのは、数人だけです。

「半鞣」とはどのような革なのか?
「半鞣」の革で作られた鞠は、どのような感触なのか?
なぜ「半鞣」でなければならないのか?

蹴鞠にとって、鞠は必数アイテムです。
  しかし、鞠作りの教科書もマニュアルもありません。全てが「秘伝・口伝」です。
「生の鹿皮からの製法は文献を見た事がない。」(東京大学名誉教授 渡辺 融先生談)

この「なぜ?」が私の鞠作りの原点となり、私の「答えのない挑戦」の始まりです。

注釈 皮:動植物の外面をおおい包んでいるもの。表皮。
   革:動物の皮をはいでなめしたもの。なめしがわ。
                   (学研現代新国語辞典 改訂第五版より)

2019年8月 文責游達
 

けまりの研究室

2019年7月27~28日にかけて、阿羅功也先生
(独立行政法人国立高等専門学校機構 旭川工業高等専門学校一般人文科 助教
サッカー部監督)が、蹴鞠研究の為に小竹荘を来訪。鞠作り工程の解説風景

 
 

 

はじめに

 
蹴鞠の研究は、渡辺融先生(東京大学名誉教授)、村戸弥生先生(蹴鞠研究家・学術博士)をはじめ多くの先生方が著作や研究書として出版されています。
 
けまり鞠遊会では、先生方の助言をうけながら伝統工法による「鹿革鞠」(しかがわまり)の復活を中心に、「けまりの研究室」-研(みがく)・究(きわめる)・室(へや)- のぺ-ジで独自の視点で蹴鞠を研究し紹介して行きます。
 
2019年7月 けまり鞠遊会